取り組み・事業

課題解決型フィールドワーク 「スポーツビジネスとしての競馬がもたらす人馬のウェルビーイング」 第14回目の講義が『引退競走馬のセカンドキャリア』をテーマに実施されました

活動報告2024.02.18

 2024年1月10日(水)、課題解決型フィールドワークスポーツビジネスとしての競馬がもたらす人馬のウェルビーイング」の第14回講義『引退競走馬のセカンドキャリア』が実施されました。
 
 本授業は、法政大学2022年度(第6回)「自由を生き抜く実践知大賞」において「よき師よき友が選ぶ実践知賞」を受賞した『人馬のウェルビーイング』研究※1を元に形成され、同研究チームの一員であるスポーツ健康学部高見京太教授が、全学共通教育プラットフォームの秋学期科目として開講し、43名が受講しました。本授業では、全14回の講義と2回のフィールドワークを通じて、テーマである『競馬』を、「スポーツビジネス」、「サスティナブルな社会」、そして「人馬のウェルビーイング(健康で幸福な暮らし)」の切り口で学習する構成です。
 
 昨年度からスタートした本授業は、JRA日本中央競馬会(以下JRA)のサステナビリティ推進部社会貢献室より全面協力を頂きました。11回の講義と1回のフィールドワークの講師をJRA各部署の職員が務めて下さり、専門的なレクチャーを頂く構成となっています。受講生は、160年の歴史を持ち、現在では10万人もの観客を集めるレースも行われる日本の競馬について深く学習すると共に、ビジネスパーソンとして活躍するJRA職員から、講義を通して多くの学びを受けることが出来ました。
本授業全体は、「JRAサステナビリティ推進部社会貢献室」と「人馬のウェルビーイング研究チーム」の合同で形作っています。研究チームからは高見教授の他に、現代福祉学部佐野竜平教授と体育会馬術部柏村晋史監督が講義を担い、「競馬」というテーマに沿いながら本学が提唱する「人馬のウェルビーイング」という視点を盛り込み、バラエティに富んだ講義展開となりました。
 
 その様な授業の中で、今回レポートする最終第14回講義は、体育会馬術部柏村監督が『引退競走馬のセカンドキャリア』をテーマに、『引退競走馬に関する多様な情報に接し、建設的に考察すること』を課題に設定した上で、馬術部が提携を結んでいる北海道新冠町のサラブレッド生産育成牧場である「錦岡牧場」※2との絆について紹介しました。
 現在、錦岡牧場より本学へ9頭もの引退競走馬を寄贈頂いております。馬術部員達が寄贈頂いた馬達へ「リトレーニング/グラウンドワーク」※3を施し、人馬双方で学び合いながら成長していく方針の下で馬術部は運営されています。講義では、本学として錦岡牧場へ深く感謝の意を表すと同時に、寄贈頂いた馬達と共にインカレを目指して日々奮闘していること、そして「人馬のウェルビーイング研究」を馬術部員・寄贈引退競走馬・研究チームが一丸となって取り組んでいる様子を、論理的に体系立てて研究要素も交えながらレクチャーされました。
 
 加えて第14回講義ではゲストスピーカーとして、新冠町役場企画課まちづくりグループ企画係の原口正也係長をオンラインでお招きし、貴重な講和を頂くことが出来ました。
 原口係長とは、研究チームが2023年8月に「人馬のウェルビーイング研究」として、錦岡牧場との提携に関するご報告や今後の産官学連携に向けて鳴海修司新冠町長を表敬訪問させて頂いた際、窓口を務めて下さったことでご縁を頂きました。その際に原口係長より、馬産地新冠町としての軽種馬産業への熱い思いを伺い、更にはご自身の生家がサラブレッド生産牧場を営まれていることから、引退競走馬へ強い関心を持っていらっしゃることをお伺いしていました。
 今回原口係長に第14回講義へご登壇頂き、①新冠町としての軽種馬産業への思い、②生産牧場における引退競走馬への思い、以上2つの視点からレクチャーを頂くこととなりました。
 
 原口係長の生家は日高町にあるご家族経営のサラブレッド生産牧場であり、1992年のGⅠ日本ダービーを勝利し、同年のJRA賞年度代表馬を獲得した名馬ミホノブルボンを輩出された牧場です。馬産地の行政職員という立場と、実際に牧場でサラブレッドと共に育ってきた立場の2つの視点からの講義は大変重みがあり、得難い素晴らしい講義となりました。
 原口係長よりまず、新冠町のご紹介を頂きました。2023年時点で町内には、サラブレッド生産牧場が108件、育成牧場が20件所在しており、年間約1,100頭のサラブレッドが生産されています。軽種馬産業は基幹産業として町の重要な存在となっています。
 町としては、町内で生産されたサラブレッドが高値で売れることや、競馬のレースで活躍して賞金を得ることで牧場収益が上がり、その結果税収が増えることで「まちづくり」にとって貴重な財源となります。牧場に対して、町から直接的な支援や関わりというものは多くはないそうですが、その功績等は町を挙げて祝福するなど、牧場へのリスペクトを強く持ち、町全体で敬意を表しているそうです。
 
 サラブレッド生産者としての立場での講和では、現場で働く方々に根差した内容を、熱い語り口で受講生へ伝えてくださいました。毎年国内で数千ものサラブレッドが生産されている中、天寿を全うできる馬はほんの一握りしかいないというのは、原口係長ご自身も幼少期から認識していたそうです。
 牧場経営や現場で仕事を続ける方達の「心の底から馬が好き」という思いを原口係長はとても尊敬していらっしゃり、「馬の輝きというのは一頭一頭に携わった全ての人達の努力、そして注がれた愛情の証である」と考えているそうです。サラブレッドの生産・育成に携わる方々は馬へ家族同然の愛情を注ぎ育てており、競馬で功績を残して1頭でも多く後世へ繋がる幸せな馬生を送ってほしいと願っているはず、とコメントしてくださいました。
 その中で、錦岡牧場と本学との関係は双方の熱意によって生まれたことであると感じてくださっており、「走る」という宿命で生まれた馬の命が沢山の人々の心を癒し、人馬共に愛情を受けられることは理想的で、「人馬のウェルビーイング」が今後も広く波及していくことを願います、と最後に温かいエールを送って頂きました。
 
 第14回講義を受講した学生から、以下の様なコメントが寄せられました。
「引退競走馬と聞くと華やかな舞台から去ることになった可哀そうな馬、というイメージが少なからずありました。しかし講義を聞いてそのイメージは払拭されました。引退後に馬術など様々な形で活躍する馬の存在を知ったことで、馬にもセカンドキャリアがあるという認識へと移り変わりました。」、「競走馬の引退後は可哀そうというイメージを持つ人も依然として多いと思われます。近頃は競馬だけでなく馬業界全体が連携して産業の振興に向かう流れが強まっているため、それをより多くの人に届けるプロモーションによって理解を広げることが重要だと感じられました。」、「今回の講義を受けて、プロのスポーツ選手のセカンドキャリアと引退競走馬のその後を重ねて改めて考えてみましたが、プロのスポーツ選手のセカンドキャリア以上に引退した馬達にはとても厳しい現実が待っているのだということを理解しました。」、「馬術競技でセカンドキャリアを歩み直そうとする姿はとてもカッコよく応援したくなりました。」、「競馬のマイナスイメージの払拭、馬産業の人口増加等、様々な問題解決が結果として引退競走馬支援につながっていくと考えます。今回の授業の中でも、『多様な情報に接し、建設的に考察する』という話がありましたが、この授業全体を受けて、物事を体系的に見る重要性を改めて実感することができました。」、「今まで授業全体を通して学んできたセカンドキャリアやスポーツとしての競馬、更には馬の育成等を総括する形で、非常に有意義な講義でした。またもし同じような授業を開講するのであれば是非受講させて頂きたいです。半年間ありがとうございました。」
 
 この度、昨年度本授業を受講した学生が、晴れて2024年4月よりJRAへの就職を決めたという嬉しいニュースが舞い込みました。本授業の一つの大きな意義が果たされた瞬間です。
 今後は更に、同研究チームとして大学当局と連携し、新冠町やサラブレッド生産牧場との産官学連携に向けての活動を推進していきます。
世界でもトップクラスの競馬・軽種馬産業を誇る我が国においても、産業を支える人材不足が顕著であり、外国人材に大きく依存している実情があります。その様な中で、本学が全国の大学で初となる新冠町並びにサラブレッド生産牧場との産官学連携事業を実現することで、業界の活性化に貢献すると共に、優秀な人材を社会へ輩出するという大学機関としての使命を果たしていきたいと考えます。
 
 2024年度も、「スポーツビジネスとしての競馬がもたらす人馬のウェルビーイング」は、全学共通教育プラットフォーム科目として秋学期に開講予定です。また、サマーセッション期間(8月5・6・7日)には、「引退競走馬のセカンドキャリア構築による人馬のウェルビーイング」が開講予定です。


※1「人馬のウェルビーイング」とは、引退競走馬を主に用いてスポーツ活動と研究教育活動の両輪に挑戦し、人馬双方の健康で幸福なくらしの実現を目指そうとする、本学研究チームが提唱する取組みです。研究チームのメンバーは、スポーツ健康学部高見京太教授、現代福祉学部佐野竜平教授、体育会馬術部柏村晋史監督、NPO法人日本障害者乗馬施設フューチャーバレー深野聡理事。
 
※2北海道新冠町の錦岡牧場と本学体育会馬術部は提携関係を結んでいます。錦岡牧場は、1992年と1993年のGⅠ安田記念を連覇し、1993年のGⅠ天皇賞(秋)を勝利の上同年のJRA賞最優秀短距離馬を獲得した名馬ヤマニンゼファーを輩出し、直近では2023年GⅢ中日新聞杯を制したヤマニンサルバムや、2022年8月の新馬戦を圧勝して現在まで4連勝しているヤマニンウルス等、数多くの活躍馬を生産育成しているオーナーブリーダーです。
 
※3「リトレーニング/グラウンドワーク」とは、JRA馬事公苑が体系立てて開発した引退競走馬への再調教技術です。人が馬を引き馬などの専門的な技術により、『あらゆる方向に』、『指示したスピードで』、『自由自在に』コントロールし、『人馬の信頼関係を構築』して『人が馬のリーダーになる為』の調教です。この技術を、2023年9月オータムセッションの課題解決型フィールドワーク『引退競走馬のセカンドキャリア構築による人馬のウェルビーイング』にて馬術部員は学習しました。

松本東馬(馬術部キャプテン)とヤマニンマンダリン(8歳牝馬) 父:シンボリクリスエス 母:ヤマニンファビュル 生産者:錦岡牧場(新冠町) 
2023年8月5日に入厩したヤマニンパンタジア(5歳牝馬)父:サトノアラジン 母:ヤマニンカルフール      生産者:錦岡牧場(新冠町)
2024年1月7日に入厩したヤマニンマヒア(8歳せん馬) 父:ディープインパクト 母:ヤマニンカルフール   生産者:錦岡牧場(新冠町)
ゲストスピーカーの新冠町役場企画課まちづくりグループ企画係 原口正也係長 生家の生産牧場とご家族
新冠町における軽種馬産業への応援や祝福、文化・功績を継承する様子
原口係長が幼少期に育てた「ベス号」との思い出のツーショット