2005年度私立大学連盟主催
「大学の教育・授業を考えるワークショップ」に参加して
コミュニケーションプロジェクト・リーダー
大沢 暁(国際文化学部教授)
このワークショップの存在は、以前から知ってはおりました。もう7,8年前のことになりますが、本学の理事を務められた川上忠雄先生が事例報告をさ れたことがありますし、国際基督教大学学長を務められた絹川正吉先生がなされた基調講演「私立大学の今日的状況」(2002年度の報告書に掲載)を読み、 大学が直面する課題を改めて実感した覚えがあるからです。本年度のワークショップは、8月3〜5日、浜松にて開催されました。それでは、実際に参加してど うであったのかといえば、期待以上でした。
基調講演として、学校法人立命館の川本八郎理事長が「大学経営から見た教育のあり方について」を語られました。私立大と国公立大とでは資産に大きな差があ り、私立大がどんなにがんばっても、尋常な勝負をしては国公立大に勝てない。両者の差によって生じる被害を一番こうむるのは学生である。教員が研究に従事 しなければならないことは承知しているが、学生が不利にならぬよう、私学の全教職員が教育に専念しなければならない。学生に感動を与える教育をしなければ ならない。それなのに私立大が国公立大の教学改革に遅れをとるのは解せない。私立大学は危機にあるのに、危機意識をもっている教職員は少ない。ましてや、 大学の経営管理に関心と能力のある教職員はもっと少ない。以下、個々の個所では反論したいところもありましたが、熱弁が続きます。
今回のワークショップのテーマはふたつあり、Aコース:「学生の多様化するニーズに対応した導入教育のあり方」とBコース:「授業改善の取り組みをどう組 織化するか」に分かれ、グループ討論がなされました。ぼくはAコースに参加しましたので、ふたつの事例発表のうち「学生の多様化するニーズに対応した初年 次教育」をご紹介します。発表者は組織的な初年次教育体制つくりでは最先端を行く関西国際大学の濱名篤学長でした。この発表で示された数字に、正直、中位 のショックを受けました。06年度から新教育課程を経た高校生が大学に入学するわけですが、すでに学生の基礎学力の低下は始まっている。学習目的が多様化 しているばかりでなく、学習動機、学習習慣、モラルにもたいへんな変化がみられる。たとえば、高校の中退率は2.3%(2002年度)、大学の中退率は 11%?(2000年度)、大学4年次卒業率79.0%(1998年度)、大学卒業後3年未満離職率32.6%となっており、人文・社会系大学入学者の実 に6割前後が18〜23歳の間に、進路について「見直し」あるいは「挫折」を経験している。つまり、「不適応」を経験している。この数字には驚きました。 さらに、適応・不適応につながる要因についていえば、「高等学校から大学への移行と適応過程に関する調査」(地域高等教育研究会、2003・4年度実施) によると、入試経路とか男女の違いによる有意差はみられない。暗記型の学生や時間管理の不得手な学生に不適応となりやすい傾向が認められる。また、4月段 階で、「入学してよかった」と感じた学生や「大学生活への期待」をもてた学生は適応する割合が高くなっている。それゆえ、適応する割合を高める上で、生活 指導の効果は大きいと考えられる。濱名学長ご自身がその具体例を示されて、入学式において450名の新入生全員と握手し、入学してよかったと実感してもら おう、大学に対する期待感を抱いてもらおうと努めておられるとのことです。
さて、ワークショップにおける最大の収穫はグループ討論でした。先ほども申し上げましたが、ぼくはAコース:「学生の多様化するニーズに対応した導入教育 のあり方」の第3グループに属し、文教大学人間科学部、立命館大学産業社会学部、成蹊大学経済学部、創価大学文学部、拓殖大学政経学部、東京女子大学現代 文化学部の先生方と組み、大会運営委員として関西大学総合情報学部の先生が1名加わったので、計8人のグループでした。最初から、「先生」と呼び合うのは よしにして、「さん」づけで進めましょうということになり、大学・学部・年齢の違いを超えて、率直な意見を言い合えたと思います。ただ、導入教育について は全員が素人でしたので、導入教育の概念そのものに関する議論は拙かったかもしれません。その点は認めるとして、グループ討議のよさは、参加者が私立大学 を改善しようという認識を共有していたせいか、情報の出し惜しみをしなかったところにあります。企業秘密(?)と思われることでも、各大学・学部がかかえ る問題やその対応策を本音で言えたことです。たとえば、オリター制度は印象に残ります。ぼくが参加したグループのなかで、導入教育に最も組織的な取り組み をみせているのは立命館大学だと思います。初年次教育として、必修の「基礎演習I・II」を実施。時間と勢力にして6割程度を生活指導・支援にあててい る。たとえば、前期に開講される「基礎演習I」は1クラスの学生数が30名であるが、4人のオリター(新入生をサポートする上級生)がつく。最初の授業で は、新入生のなかに4人のオリターが紛れ込み、だれがオリターであるのか、当てっこをすると、クラスの雰囲気が一挙に盛り上がる。その他にも、オリターは プレゼンテーションのお手本をする、新入生のお付き合いをしてカラオケにまで行ってくれる。新入生が2年次に進級すると、多くが自分もオリターとなること を希望する。新入生が大学に適応する上で、また、学生が大学への帰属意識をもつ上で、すばらしい制度だと感心しました。
最後に、第3グループのみなさんと大会を準備された運営委員の先生方に心からの謝意を表しつつ、この報告の結びとさせていただきます。